アパレル企業で、海外での商品販売を検討中の企業もあるでしょう。しかし、海外進出となると市場動向やサイト運営に関する不安をお持ちの方も多いと思います。この記事では、アパレル企業で海外進出を検討中の方に向け、海外進出の際に考慮すべき事項と、具体的な対策を紹介します。事例も併せて紹介するので、これから海外へ向けた事業や販路の拡大をしたい方は参考にしてください。
海外のアパレル市場の概況
世界のアパレル市場は、2015年には1兆3060億ドル(約142兆円)、2025年には倍増する見通しが立っています。特に中東・アフリカやロシアを含む東ヨーロッパで成長率が高く、アパレル市場の売上最大がアジア太平洋であることは変わらないと見込まれています。
日本のアパレルブランドは、独自性の高いデザインや品質の面で評価され、日本国内だけでなく世界のファッション市場で注目を集めています。
参考:アパレルブランドの海外進出!課題と成功のポイントは?
世界市場は2025年までに倍増 データで見るファッション市場
アパレル市場規模と市場規模株式分析 – 成長傾向と成長傾向予測 (2024 ~ 2029 年)
アパレルの海外進出方法
日本のアパレルブランドが海外で成功するためには、国内外の市場動向や消費者の嗜好を的確に把握し、戦略的に展開することが不可欠です。さらに、海外進出に伴う課題やリスクを理解し、適切な対策を講じることが成功のカギとなります。
アパレルの海外進出方法には、主に以下の3つの手法があります。
1.越境EC
越境ECとは、インターネットを通じて国外に向けて販売を行うことです。ウェブサイトやオンラインショップを通じて、海外の顧客に商品を提供することが可能です。この方法は、現地法人を設立するなどのコストが不要な点では比較的低コストで、簡単に海外市場に参入することができます。
2.輸出・卸売
輸出・卸売とは、商品を海外の小売業者や卸売業者に販売することです。自社ブランドの商品を卸売業者や小売業者に提供し、彼らが現地で販売する形態です。これには現地の流通網や販売ルートが活用できる利点があります。
3.直営店
直営店とは、現地に実店舗を構えて自社ブランドの商品を販売する方法です。自社の店舗を運営することで、ブランドイメージを維持し、顧客との直接的な関係を築くことが可能です。しかし、現地の法規制や文化の違いに対応する必要があります。
アパレルの海外進出ステップ
海外進出では、ファストファッションの台頭が原因でサイトを立ち上げても商品が売れない、集客ができないといったような課題を抱える出店者も少なくありません。
アパレル企業が海外進出成功させるためには、以下の手順で取り組むことが重要です。
1.市場調査
進出先の市場規模、成長率、競合状況、消費者の嗜好などを徹底的に調査し、自社の強みを活かせる市場を選択してアパレルを販売する必要があります。
2.進出戦略策定
ターゲットに定めた市場に対する適切な価格帯や商品戦略、集客方法を検討する必要があります。マーケティング戦略を明確に策定し、実行可能な計画を立てましょう。
3.店舗立ち上げ(リアル/オンライン)
店舗を立ち上げる場合は、立地、内装、スタッフ教育などを計画的に行う必要があります。継続して店舗経営を続けられるよう、リソースの確保の計画を入念に立てることが必要です。
4.販促
現地の消費者にリーチするために、広告宣伝、イベント開催、インフルエンサーマーケティングなどを活用します。
アパレルの海外進出における課題・留意点
アパレルブランドにとって、海外市場への進出は大きな成長機会となります。しかし、同時に多くの課題も存在し、事前に十分な準備と対策を講じる必要があります。アパレルブランドの海外進出における主要な課題と留意点について、成功への道筋としてまとめます。
1.現地の市場特性の理解が必要
異なる文化や嗜好は、消費者のニーズや購買行動に多様な影響を与えます。日本とは違った市場特性を把握することが大切です。
・イスラム圏における肌の露出規制など、宗教的文化的背景への配慮
・欧州におけるサイズ規格差異への対応として、現地のニーズに合わせたサイズ展開
これらの特性を理解して出店準備を進めましょう。
2.現地の法規制の理解が必要
海外展開するためには、各国における法規制を順守する必要があります。下記のようなことに留意して地元の専門家や現地法人を活用しましょう。
・商標登録や特許取得など知的財産権戦略を実行し、ブランド保護と競争優位性を確保
・各国の労働法を遵守し、労働条件や福利厚生などを適切に管理することで、人材確保と労使関係の円滑化を実現
・関税や輸入制限などの貿易規制を事前に確認し、適切な手続きを行うことで、スムーズな通関を実現
3.対象国の人材等のコストの理解が必要
現地人材の育成と活用は、現地市場への迅速な適応と人件費削減を実現するために重要です。
研修プログラムやキャリアパス制度などを整備し、モチベーション向上・定着率向上を意識して現地人材の能力開発を支援する必要があります。
4.販路の確保が必要
最後に海外進出で成功するために必要不可欠なことは適切な販路を確保することです。主要な販路とその戦略的活用方法について解説します。
・現地市場に精通した代理店・卸売業者と提携することで、迅速な市場参入と販路拡大を実現する
・越境ECプラットフォームや自社ECサイトを構築することで、世界中の顧客に直接商品を販売できる状態にする
・ブランドイメージの確立と顧客との長期的な関係構築のため直営店を運営する
参考:アパレル海外展開の考え方、日本と海外の違いとは?
日本ブランドの海外展開、「勝てる」分野で戦略的に挑む
アパレルの海外進出における成功ポイント
1.自社が勝てる領域で戦う
自社のコアとなる強みの精緻な分析と戦略的ポジショニングの確立をしましょう。
①高品質な素材、独自のデザイン、優れた生産技術など、自社が競合と比較して優位性を発揮できる領域を定量的なデータに基づき明確に分析します。単に価格競争力があるだけでなく、顧客が求める価値を提供できる強みであることが重要です。
②競合企業の強みと弱みをSWOT分析などのフレームワークを用いて詳細に評価し、自社の強みを活かせる市場ポジショニングを確立します。市場規模だけでなく、成長率、顧客層、競合状況などを多角的に分析します。
2.現地のユーザーの特性・嗜好を理解する
アパレルの海外進出には、現地ターゲットの選定と顧客ニーズの把握がポイントです。
①自社の強みが活かせる市場、競争が比較的少ない市場、顧客のニーズに合致する市場を定量的な市場調査に基づいて慎重に選びます。
②顧客の年齢層、性別、収入レベル、ライフスタイル、文化などを詳細に分析し、顧客ニーズに的確に対応できる商品開発・マーケティング戦略を策定します。
3.無駄なコストを減らす工夫を行う
収益性を確保するために重要な要素の一つは、無駄なコストを減らすことです。
①原材料、資材、生産拠点などを現地で調達することで、輸入コストや輸送コストを削減できます。
現地のサプライヤーと交渉し、最適な調達条件を獲得することが重要です。サプライチェーン全体の効率化を図ることで、在庫コストや物流コストを削減できます。
②調査を行い、顧客ニーズを把握、データ分析を活用し、効果的な施策を検証してターゲット顧客に合わせた効果的なマーケティング戦略を策定しましょう。
そうすることで、効果の低い施策を把握することができ、広告宣伝費の見直しなど費用対効果の高い施策が蓄積されていきます。
参考:日本ブランドの海外展開、「勝てる」分野で戦略的に挑む
アパレルD2C×海外進出に勝機あり!ファッション業界のグローバル課題とその解決策とは
海外進出している日本ブランドの事例紹介
ここでは、実際に海外進出をしている日本のアパレル企業の事例を紹介します。
1.ユニクロ
ユニクロは1984年に広島で創業した服飾小売店です。ライフウェアをコンセプトに、高品質でお手頃な価格の服を提供することで人気を博しました。
2000年代に入ると、ユニクロは本格的な海外展開を開始しました。以下のような戦略で海外市場に進出しています。
- シンプルでベーシックなデザインにこだわり、幅広い層に受け入れられるよう工夫
- 生産拠点を中国など人件費の安い国に移し、低コストを実現
- 主要都市の一等地に旗艦店を出店し、ブランド認知を高める
- 現地スタッフの育成と、現地の嗜好に合わせたマーチャンダイジングを実施
こうした戦略が奏功し、ユニクロはアジア、欧州、米国など世界各国で多くの支持を得ています。2022年現在、世界約3,300店を展開する真のグローバル企業に成長しました。
2.良品計画
良品計画は1980年に東京で「無印良品」ブランドとして創業した衣料品・生活雑貨の専門店です。「良いものを適正な価格で提供する」をコンセプトに、シンプルでベーシックな商品を展開してきました。2001年に香港に初の海外店舗を出店して以来、世界進出を加速させています。下記の点が成功要因として挙げられます。
- 良品計画の商品は、国や文化を問わずに受け入れられるシンプルかつ洗練されたデザインが特徴
- 高くも安くもない適正な価格帯が、中間所得層を中心に幅広い層から支持
- 世界中のどの店舗に行っても、お馴染みの雰囲気とレイアウトを体験できる
現在、良品計画は世界35の国と地域で約830店舗を展開中です。今後はECサイトの機能強化やブランド価値の向上に注力し、さらなるグローバル化を推進する方針です。
3.Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)
Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)は、1981年にパリでデビューコレクションを発表し、独創的なデザインで高い評価を得た日本人デザイナーです。1986年にパリに直営店「バティヤール」をオープンしたことがヨーロッパ進出の起点となりました。1990年代に入ると本格的な海外展開が加速し、現在では世界60カ国以上で販売されるまでになりました。
ヨーロッパではフランス、イタリア、イギリスなどで特に人気が高く、1994年にはアメリカのニューヨークにも直営店をオープン。アジアでは1990年代後半から香港、台湾、中国本土などで販路を広げていきました。
Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)のデザインの特徴は、無駄を排したミニマルなスタイルと、独自の解体主義的なディテールが目を引くところにあります。また、高い縫製技術と上質な素材使いにもこだわりが見られます。
パリをメイン拠点にしながら、世界中で革新的なコレクションを発信し続けることで、日本発のブランドながらグローバルで高い評価と人気を獲得しています。Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)は、日本のファッションブランドが世界に広く浸透した成功事例の一つと言えるでしょう。
参考:アパレル業界のグローバル化って何?例えば?
無印良品の海外店舗数は1,000以上!失敗から成功への道のり
ヨウジヤマモトの歴史
まとめ
世界のアパレル市場は拡大が見込まれ、中東・アフリカ、東ヨーロッパ、アジア太平洋地域で高い成長が期待されています。日本のアパレルブランドは高い評価を受けており、海外進出の機会が広がっているのでこの機会を逃さないようにしましょう。
しかし海外進出には課題もあり、現地の市場特性、法規制、人件費などへの理解が不可欠です。主な進出方法は越境EC、輸出・卸売、直営店があり、それぞれ長所と短所があります。成功のためには詳細な市場調査、戦略策定、販売促進が重要になります。
日本のユニクロ、無印良品、Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)、などが海外で高い評価を得ており、ブランド力と現地ニーズへの対応がカギとなっています。