この記事では、家電ECの市場規模や市場動向、成功ポイントを解説します。これから家電業界でEC事業を発展させたいとお考えの方は参考にしてください。
家電業界のEC市場規模
家電業界のEC市場規模とEC化率の推移
まず、家電業界のEC市場規模とEC化率の推移について見てみましょう。 経済産業省の「電子商取引統計調査」の最新のデータによれば、2022年時点で生活家電、AV機器、PC・周辺機器等のEC市場規模は2兆5,528億円、EC化率は42.01%となっています。「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」分野は物販系の中でEC化率が高いカテゴリーの一つですが、昨年からも順調に成長しており、今後も伸びが期待されています。
また、総務省統計局家計調査によれば、2022年の1世帯あたりの「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の年間平均支出は62,305円となっており、2021年の65,053円と比較すると減少しましたが、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年との比較では8.7%増加しています。
家電EC市場の成長要因
続いて、なぜ家電業界のEC市場が成長し続けているのか、その要因について説明します。
①「型番買い」ができる
消費者はインターネット製品の概要やスペックを簡単に比較でき、自分に合った製品を選びやすくなっています。これにより、同じ性能・品質の商品を最安値のショップで購入することが可能になり、ECサイトでの家電購入が一般的になっています。
②大型家電の自宅への配送ができる
大型の家電製品を店舗で購入するのは手間がかかりますが、ECサイトなら自宅への配送が可能です。この便益が消費者に利益をもたらし、EC市場の成長を支えています。
③商品やショップの比較検討が容易
ECサイトでは、多くの商品やショップがオンライン上で比較検討できます。消費者は価格、レビュー、評判などを参考に購入を容易に判断できます。
家電EC市場の懸念要因
国内では以下のような懸念点が考えられます。
①家電製品の耐用年数とリピート購入の低下
家電製品は一般的に耐用年数が長く、頻繁な買い替えが必要ないため、 EC事業者にとってはリピート購入の促進が難しいという課題があります。消費者が数年に一度しか製品を購入しない場合、EC事業者は購入頻度を増やす戦略を検討する必要があります。
②大手が強いため、国内市場だけでは枯渇する可能性がある
家電EC市場には既に大手プレイヤーが存在し、競争が激化しています。これに対抗するためには、差別化されたサービスや製品の提供が必要です。また、現在では海外の家電ブランドも国内で人気な傾向がみられるため、国内市場だけでなく海外展開を視野に入れることも大切です。
家電業界のEC市場動向
日本における家電業界の大手5社の概況
それでは続いて、日本における家電業界の大手5社について詳しく見ていきましょう。
ジャパネットHD | ヨドバシカメラ | ヤマダ電機 | ビックカメラ | 上新電機 | |
EC売上高 | 約2,487億円 | 約2,099億円 | 約1,505億円 | 約1,434億円 | 約756億円 |
チャネル | 自社ECサイト、外部ECサイト | 自社ECサイト、外部ECサイト | 自社ECサイト、外部ECサイト | 自社ECサイト、楽天市場 | 自社ECサイト、楽天市場 |
工夫 | 独自のテレビショッピング番組で商品を紹介 | 商品の注文後2時間30分以内に自宅に届けるサービス便 | ネット注文した商品を最短30分で受取可能なサービス | 「楽天ビック」という公式ストアを開設 | O2Oを強化 物流体制の整備と顧客データの統合を推進 |
1位:ジャパネットHD
EC売上高:2487億円
商品種類:ジャパネットHDは、家電製品、健康器具、美容製品、キッチン用品など、多岐にわたる商品カテゴリーを提供しています。
チャネル:ジャパネットHDは、自社ECサイト(たかたオンラインショップ)を主要な販売チャネルとして活用しています。また、外部ECプラットフォームも活用し、新たな顧客層を捉えています。
工夫:ジャパネットHDのECプラットフォームは、商品の特徴や料金を詳細に説明し、消費者に情報を提供しています。また、独自のテレビショッピング番組で商品を紹介しています。
2位:ヨドバシカメラ
EC売上高:2099億4800万円
商品種類:ヨドバシカメラのECプラットフォームでは、テレビ、カメラ、スマートフォン、家電製品など、広範な商品カテゴリーを提供しています。また、家電以外の家具、書籍、趣味の商品なども販売しています。
チャネル:ヨドバシカメラは、自社のECウェブサイト(ヨドバシドットコム)を主要な販売チャネルとして活用しています。さらに、Amazonや楽天市場などの外部ECプラットフォームでも商品を販売しています。
工夫:ヨドバシカメラのECプラットフォームは、使いやすさと購入プロセスの簡素化に工夫が凝らされています。レビューシステムを活用し、消費者に製品の評判や評価を提供しています。
また、ヨドバシカメラでは都内中心エリアを対象に、商品の注文後2時間30分以内で自宅に届けるサービス便「ヨドバシエクストリーム」を行っています。
3位:ヤマダ電機
EC売上高:1505億円
商品種類:ヤマダ電機のECプラットフォームでは、家電製品、パソコン、スマートフォン、調理器具など、家電関連商品が豊富に揃ってます。
チャネル:ヤマダ電機は、自社ECサイト「YAMADA web.com(ヤマダウェブコム)」を中心に販売を行っています。また、外部ECプラットフォームも利用して、広範囲の顧客に商品を提供しています。
工夫:ヤマダ電機のECプラットフォームは、顧客への情報提供に工夫が凝らされています。製品の詳細情報や比較機能を提供し、ユーザーがより情報を持った状況で買い物ができるようになっています。
また、YAMADA web.com店では、ネット注文した商品を最短30分で受け取ることができる「ネットで注文、おみせde受取」というサービスを展開しています。
4位:ビックカメラ
EC売上高:1434億円
商品種類:ビックカメラのECプラットフォームでは、カメラ、ビデオカメラ、パソコン、家電製品など、家電に関連する幅広い商品を提供しています。
チャネル:ビックカメラは、自社ECサイト(ビックカメラドットコム)を主要な販売チャネルとして運営しています。さらに、外部ECプラットフォームも活用しており、多くの顧客に商品を届けています。
工夫:ビックカメラのECプラットフォームは、顧客体験を重視しており、使いやすいウェブサイトを提供しています。そして自社ECサイトだけでなく、楽天市場内にも「楽天ビック」という公式ストアを開設しており、楽天会員の集客にも力を入れています。
5位:上新電機
EC売上高:755億5200万円
商品種類:上新電機のECプラットフォームでは、家電製品、生活家電、冷暖房機器、デジタル家電など、多種多様な商品が取り揃えられています。
チャネル:上新電機は、自社ECサイト(上新電機オンラインショップ)を中心に販売を行っています。また、楽天市場という外部ECプラットフォームを活用し、新たな購買層にアプローチしています。
工夫:上新電機の EC プラットフォームは、ユーザーエクスペリエンスを向上させるために工夫が凝らされています。また、EC需要の高まりを受け、ECから店舗へ、あるいは店舗からECへの相互送客の仕組み(O2O:Online to Offline)を強化し、物流体制の整備と顧客データの統合を推進しています。
世界における家電業界の大手3社の概況
ここまで日本の家電業界の概況をみてきましたが、世界における家電業界大手3社についてみてみましょう。
アリババグループ
事業概要:アリババグループは、中国を拠点とするテクノロジー企業で、世界最大のECプラットフォームを運営しています。
その主力プラットフォームは「アリババドットコム」で、B2B(ビジネス対ビジネス)およびB2C(ビジネス対消費者)サービスを展開しています。また、アリババはストリーム、クラウドコンピューティング、デジタル決済、エンターテイメントなど、幅広い分野で事業を展開しています。
家電業界への広がり: アリババは家電業界においても強力なプレゼンスを持っており、様々な家電製品を提供しています。また、アリババはAIoTへの投資を発表しており、スマートスピーカーを中心に、スマート家電への注力を高めています。
国際展開: アリババは国際市場でも急速に展開しており、アジアを中心に様々な国でEC事業を展開しています。その国際展開により、家電製品を含む多くの商品が世界中の消費者に届けられています。
Amazon.com
事業概要: Amazon.comは、アメリカを拠点とする世界最大のECプラットフォームで、B2CおよびC2C(消費者対消費者)のEC事業を展開しています。Amazonはその他にもクラウドサービス(Amazon Web Services) )、デバイス(Amazon Echo、Kindleなど)、コンテンツデジタル(Prime Video、Amazon Musicなど)など多様な事業分野で成功を収めています。
家電業界への普及: Amazonは幅広い家電製品を提供し、Kindle、Amazon Echoなど独自のデバイスも製造・販売しています。さらに、AmazonBasicsというプライベートブランドで、低価格で高品質な家電製品を提供し、またAlexaを搭載したスマートホームデバイスも展開しています。
国際展開: Amazonは世界各国に展開し、国際市場でのプレゼンスを高めています。
JD.com(京東商城・ジンドンショウジョウ)
事業概要:JD.com(京東商城)は、中国を拠点とする大手EC企業で、主にB2CのEC事業を展開しています。また、ストリームネットワークの整備にも注力しており、高度なストリーム技術を持つことで急速に成長しました。
家電業界への普及: JD.comは家電製品においても競争力を発揮しており、テレビ、スマートフォン、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品を提供しています。また、JD Plusという会員プログラムでお子様特典を提供し、顧客のロイヤリティを高めています。
国際展開: JD.comは国際市場への普及を積極的に推進しており、アジアや欧米など多くの国で事業展開を行っています。特に、日本市場においても注目を浴び、家電製品の販売を行っています。
家電業界のEC進出における成功ポイント
それでは実際にEC進出を目指す際にはどのような点を重視したら良いのか、各ポイントについてまとめたので説明します。
ブランディングを行う
自社のブランドを確立し、消費者に信頼感を持たせることが重要です。品質やサービスの向上を目指し、ブランド価値を高めましょう。
ブランディングを行う際に重要なポイントは以下の通りです。
- 品質の向上
消費者は家電製品に品質を求めます。製品の品質向上と品質管理はブランド認知度を高め、顧客の満足度を向上させる鍵となります。品質検査やテストプロセスの強化を行い、高品質な製品を提供しましょう。 - サービスの向上
製品の購入後もお客様へのサポートが大切です。適切な保証やアフターサービスを提供し、お客様の意見を参考にしましょう。根本的な問題の解決やカスタマーサポートはブランド評価を高めることになります。 - ブランドストーリーの構築
消費者は自分の思いと重なるブランドストーリーに共感します。自身の歴史、価値観、社会的貢献などを伝えるストーリーテリングを通じて、ブランドの思い出を残しましょう。
適切な出店方法を選定する
自社ECサイト | 楽天市場 | マルチチャネル | |
メリット | ブランドの独立性を高め、独自の顧客ベースを構築可能 | 集客を容易に実施可能 手軽にスタート可能 |
顧客獲得の可能性を高めることが可能 |
デメリット | コストと時間がかかる | ブランドの独立性を構築しづらい | 運営が煩雑になる |
自社ECサイト
自社ECサイトを運営することでブランドの独立性を高め、独自の顧客ベースを築くことができます。しかし、ECサイトの構築と運用にはコストと時間がかかる場合があります。
楽天市場
楽天市場などの既存のプラットフォームはすでに多くのユーザーが集まっているため、そこで出店することで集客効果を高めることができます。また、プラットフォームプロバイダーが決済処理やセキュリティを管理してくれるため、運用コストが低く、手軽にスタートできるのが魅力です。
マルチチャネル
複数のプラットフォームに出店し、顧客層にアプローチするマルチチャネル戦略は、顧客獲得の可能性を高める方法です。ただし、在庫管理や注文処理が複雑になることに注意し、システムを整備する必要があります。
物流体制を効率化する
迅速かつ丁寧な配送を実現するために下記のポイントを押さえ、物流体制を効率化しましょう。
- 物流プロセスの最適化
プロセスを最適化するために在庫管理システムを導入し、製品の保管から出荷までのスムーズな流れを確保しましょう。自動化された倉庫管理システムやロボット技術の活用など、最新のテクノロジーを導入し、効率を向上させることも可能です。 - 配送ネットワークの強化
地域ごとに効率的な配送ネットワークを構築してお客様への配送時間を短縮しましょう。また信頼性のある運送業者と提携し、高品質な配送サービスを提供することで、リピート購入の可能性を向上させることができます。 - 透明な配送情報提供
顧客に配送状況を透明かつ短時間で提供することは信頼感を築く要素の一つです。配送追跡ツールや通知システムを活用し、顧客が注文の進捗状況を追跡できるようにしましょう。問題が発生した場合には、迅速に適切な対応を行うことも大事です。
購入後のサポート体制を充実させる
家電製品の購入後、顧客サポートは重要な役割を果たします。購入者が問題や不明点を抱えた際に迅速で効果的なサポートを提供することは顧客満足度を高め、リピート購入を促進する鍵となります。
具体的にはこのような対策を行いましょう。
- 返品・交換ポリシーの整備
お客様に対して明確で公平な返品・交換ポリシーを提供しましょう。製品に欠陥があり、顧客の期待に適合しなかった場合に、スムーズな対応を行うことで信頼感を構築します。問い合わせ方法などをわかりやすくウェブサイト上で共有し、お客様が簡単にアクセスできるように整備しましょう。 - カスタマーサポートの充実
カスタマーサポートは、お客様とのコミュニケーションにおいて重要です。電話、チャット、メールなど複数のコンタクトチャネルを提供し、顧客からの問い合わせや問題解決に対応できる体制を整えましょう。 迅速に専門的なサポートを提供することが求められます。 - フィードバックの収集と活用
顧客からの意見を積極的に収集し、製品やサービスの改善に取り組みましょう。顧客の声に耳を傾け改善点を実施することで、満足度を向上させ、ロイヤルティを構築します。アンケート調査や顧客レビューの分析など、フィードバック収集の方法を検討しましょう。
SEO対策を行う
検索エンジンでの妥協性を高めるために、SEO(検索エンジン最適化)対策を実施しましょう。消費者は製品や情報を検索エンジンで探し、高い検索エンジンランキングを持つサイトにアクセスする傾向があるため、下記のような適切なキーワードやコンテンツ戦略を考えることが大切です。
- キーワードリサーチ
顧客が検索するであろう情報を調査し、適切なキーワードを検討しましょう。 一般競争のキーワード戦略も分析し、競争力のあるキーワードを特定します。 - コンテンツ戦略
高品質なコンテンツはSEOに関して重要な要素です。商品ページ、ブログ記事、ガイド、レビューなど、コンテンツを充実させ、関連性の高いキーワードを正しく構成しましょう。コンテンツは顧客の関心を引き、検索エンジンのランキング向上に貢献します。 - テクニカルSEO
サイトのテクニカルな側面も重要です。クローラビリティを向上させ、ページの読み込み速度を最適化し、モバイルフレンドリーなデザインを採用することで、検索エンジンでのランク向上に最適です。サイトマップの提案など、テクニカルSEOの基本を実施しましょう。
ECと実店舗の融合を促進する
家電業界において、ECと実店舗を連携させることは、顧客に向けた総合的な体験を提供し、競争力を高めるための重要な要素です。以下は、ECと実店舗の融合戦略に関する詳細なアプローチです。
- オムニチャネル戦略
オムニチャネル戦略は、ECと実店舗を一体化させ、顧客がオンラインとオフラインの両方で先取り的なショッピング体験を享受できるようにする方法です。以下は、オムニチャネル戦略の要素です。
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- オンラインでの商品の実店舗での受け取り(クリック&コレクト)
- 実店舗でのオンライン注文受付
- 在庫の突然な同期
- 顧客データの一元化
- デジタルサインエージェント
実店舗にデジタルサインエージェントを導入し、顧客に対して製品情報やプロモーションを継続して提供しましょう。スマートディスプレイやタブレットを活用して消費者の関心を引きつけ、購入を促進します。 - 在庫の透明性
サイト上と実店舗それぞれにある商品の在庫状況を連携しながら確認できる仕組みを作りましょう。顧客は在庫があるかどうかを確認し、必要な場合に実店舗で購入することができます。
海外進出を検討する
国内市場だけでなく、海外展開も家電EC事業の成長戦略の前提として検討する価値があります。国際市場への参入はリスクが伴いますが、成長の機会も多く存在します。以下は戦略に関する詳細なアプローチです。
- 市場調査と検討
海外市場を検討する前に市場調査を実施しましょう。市場の規模、成長率、協議状況、規制などを評価し、最適な市場を特定します。また、国際的なビジネスパートナーとの提携も検討しましょう。 - ローカライズ戦略
世界文化、言語、規制に合わせたローカライズ戦略を展開しましょう。ウェブサイトやコンテンツの翻訳、価格戦略の調整、地域ごとの販促活動のカスタマイズなどが含まれます。 - 物流戦略
国際配送と分配・税金の取り扱いを考慮し、効率的なロジスティクスおよび物流戦略を構築しましょう。適切な物流パートナーと提携し、国際的な配送を確立する体制を整えます。 - 国際的なデジタルマーケティング
各国の特性に合わせた広告、SNSプロモーション、検索エンジン広告などを活用し、ターゲット市場に訴求力のあるキャンペーンを展開します。
まとめ
家電EC市場は急速な成長を遂げ、将来性の高い分野として注目されています。この記事では家電EC市場の市場規模や動向、成功へのポイントについて解説しました。EC事業に参入すべきか、またはどのように参入すべきかを悩んでいる企業の方は、専門的なアドバイスを提供するサービスを利用するのもおすすめです。
STAND.Incと株式会社4Dでは協業でEC市場進出の支援サービスを提供しています。今回の記事を通して、次へのステップアップを検討している方はぜひお問い合わせください。